第18章 「血と花の話をしましょう**」
「おかわり、いかがしますか?」
静けさを破ったのは、バーテンダーの穏やかな声だった。
七海が「……そうですね」と答えかけた、その時。
「マスター、シンデレラを二杯ね」
軽く指を立てる五条に、バーテンダーが無言で頷く。
「……なぜ?」
「まぁ、僕からのお礼だよ」
「それなら、ノンアルコールじゃないものがいいのですが」
七海のため息混じりの言葉に、五条が笑う。
やがてカウンターに、二つのグラスが静かに並べられた。
グラスに注がれる黄金色の液体。
甘くて、ほんのり酸っぱい――ノンアルコールのカクテル。
五条はそのうちのひとつを、自分の手前へ。
もうひとつを、七海の前へと滑らせる。
「……彼女は、きっと僕と同じで好きだと思うんだ。こういう甘いカクテル」
そう呟いたあと、五条は手元のシンデレラを飲み干した。
「ぷはっ。うまいね」
グラスを置きながら、彼は席を立つ。
「じゃ、僕は戻るよ」
「……明日は、朝7時にロビーで。遅れないでくださいよ」
五条悟は軽く手を振り、夜の帳に溶けていった。
七海はひとり、残されたシンデレラに目を落とす。
グラスを持ち上げ、そっと口元に運ぶ。
柑橘の香りが鼻腔をかすめ、口に含めば――
「……甘い」
わずかに眉間に力を寄せたのを見て、バーテンダーが静かに水を差し出す。
七海はそれを受け取りながら、心中で吐息をついた。