第18章 「血と花の話をしましょう**」

「そんなものに頼らなければならない時点で、あなたの方に問題があるのでは」
　
「彼女が“本音”を言わないのは、あなたがそれに耐えられないと思っているからかもしれませんよ」

　

告げられた言葉に、五条は黙った。
ただ、トントン、と。
テーブルの端を叩く指が、どこか落ち着きなく動いている。



「お互い好き同士で、セックスもしてるのに？」

「……“好き”だけじゃ、埋まらない距離もあるでしょう」



七海はグラスの氷を見つめながら、言った。

　

「特に――あなたのような人と付き合うのは、相当な覚悟が要ると思います」

「そうなの？」



五条は首を傾げた。
　


「……五条さん、あなたは恋愛ですら、自分を満たすための手段として使っているように見えるんです」

　

七海はグラスの縁に残る水滴を指先で拭いながら、続ける。

　

「呪術と同じですね。誰かのためじゃない。守るでもなく、寄り添うでもなく。あなたは、ただ自分が“気持ちよくなれる相手”を求めてるだけ」

「でも、その今の“彼女”とやらは……違うと？」

「全然違うよ。だって――」

　

言いかけた五条の言葉に、七海がすかさず被せる。

　

「では、その彼女の誕生日は？」

「……」

「好きな食べ物は？　趣味は？　嫌いなものは？」

「…………」

「最近ハマってる動画は？　推しの芸能人は？」

「……七海、なんでちょっとキレてんの？」

　

五条は苦笑しながらグラスを傾ける。
その表情がごまかし半分なのは、七海には明白だった。