第18章 「血と花の話をしましょう**」
「ちょ……! せ、先生?」
声がうわずる。
服越しに伝わる先生の吐息が熱くて、また心臓がうるさくなる。
「……少し、こうさせて」
小さな声。
甘えるみたいな、拗ねるみたいな。
(……なんか、かわいい)
思わず、手が動いてた。
先生の頭をそっと撫でる。
柔らかい白い髪が、指のあいだからすべるたび――
言葉にならない想いが、そっと内側に積もっていく。
もっと甘えてほしい。
この人が安心できるなら、
私の胸元なんて、何度でも貸してあげたい。
もっと寄り添わせてあげたくて、髪をなでる手が止まらなかった。
しばらくそうしていると、先生が急に何かを思いついたように言った。
「あ、そっか」
「どうかしました?」
先生が視線をあげて、私を見た。
「これからから連絡ない時は、一人でしてるんだなって思えばいいのか」
「っっっっっっっ……!!」
一気に顔が熱くなる。
「や、しない……もうしないですから……!」
「僕をオカズに、さっきは何回イったの?」
前言撤回! この人はもう――!!
ほんと、こういうデリカシーないところ!!
って、思うのに。
先生が、笑ってる。
それだけで――
怒ってたはずの気持ちも、恥ずかしさも、どこかに消えてしまった。
思わず、先生のシャツをぎゅっと掴む。
すると、その手に応えるみたいに、先生の腕が少しだけ強くなる。
「おやすみ、」
耳元に落ちた声は、ふざけていたさっきとは違っていて。
くすぐったいくらい優しい。
「おやすみなさい、先生」
先生と自分の体温がゆっくり混ざり合って、
ぽかぽかして、まぶたが重くなっていく。
(……ずっと、こうして先生の隣にいたい)
でも――
“ずっと”って、いつまでなんだろう。
心の中に、ぽつんと小さな疑問が生まれた。
明日?
来週?
もっと先のこと……?
考えかけたけれど、
寄り添うぬくもりと眠気がすべてをさらっていく。
意識はそのまま静かに、闇へ沈んでいった――。