第18章 「血と花の話をしましょう**」
「わたしも、です。先生がいない間、ずっと、寂しかった。ほんとは……電話したくて。けど……先生にめんどくさいって思われたら、嫌で……」
言葉にした瞬間、
泣きたくなんてなかったのに、涙が勝手にこぼれそうになる。
「え、、十分めんどくさいでしょ……」
「……!!」
その言葉に、一瞬で涙が引っ込む。
先生は笑いながら、指でそっと私の目尻をなぞった。
「そういうとこも含めて、可愛いって思ってるから」
「なんか、生まれたてのひよこみたいなんだよね。僕に一生懸命ついてきてくれて、でも少し目を離すとどっか行っちゃうの」
(ひよこ……)
なんか、やっぱりちょっと子供扱いされてる気がする。
頼りなくて、先生に守られてばっかりで……自分でもそう思うから、その通りなんだけど。
私と先生は、年も離れてるし、育ってきた世界もぜんぜん違う。
たぶん……私が高専に入らなかったら、関わることなんてなかった人。
最初に出会ったときから、どこか遠くの人だと思ってた。
だけど――
さっき、先生が「もやっとする」って言ったとき、なんか……すごくびっくりした。
そんなこと、思うんだって。
(……“ひよこ”の私に、先生が悩んだり、不安になったりしてるなんて)
想像したら、なんだか少しだけ笑えてきた。
「なに、笑ってんの?」
ちょっとムッとした声。
先生が少し身を起こして、覗き込んでくる。
「私も、先生のこと……知りたいなって、思ってただけです」
そう言った瞬間、先生が目をすこしだけ見開いた。
え……なに?
なんか、変なこと言ったかな。
先生は、私からそっと目をそらして――
少しだけ息をつくみたいにしてから、ぽつりとこぼした。
「……僕、が思ってるより、めんどくさいし、性格悪いよ」
「知ってます」
即答したら、先生がぴたりと固まったのがわかった。
その反応を見たら、また笑ってしまった。
「あっそ」
そう言って、先生がふいに私の胸もとに顔を埋める。