第18章 「血と花の話をしましょう**」
先生が今まで付き合ってきた人たちは、もっと大人で、もっと余裕があって。
先生を困らせたりしなかったんだろうな、って。
そう思ったら、また落ち込んできて、少し泣きたくなった。
「……すいません。私、誰かと付き合うの……初めてで」
布団に顔を埋めたまま、ぽつりと呟く。
情けない声が、シーツに吸い込まれていった。
先生は私の顔を見て、ほんの一瞬だけ固まった。
「……あー……まって。なんか違う意味で伝わってる」
珍しく慌てた声。
先生が、慌ててる……?
後頭部をかきながら、視線を泳がせている。
「僕もさ。ちゃんと“付き合う”っていうの、初めてなわけ」
「……え……?」
(うそ……)
先生も?
誰かと、ちゃんと、って……
「だから、些細なことで……僕も、一喜一憂するってこと」
先生が小さく笑った。
「……から連絡なかった日とかさ。今なにしてるんだろ、とか、僕のこと思い出してくれてるのかな、とか。しょうもないことで、ぐるぐる考えたりするわけ」
(え……先生が……?)
思わず顔を上げる。
「でさ、野薔薇たちと楽しく過ごしてたとか聞くと、なんか――」
そこで先生は一度、言葉を飲み込んだ。
「……なんかこう、胸のあたりが、もやっとすんの」
先生がそんなふうに思うなんて――想像したこともなくて。
気づけば、口が勝手に動いていた。
「先生は、そういうこと……思わないのかと、思ってました」
「……は僕をなんだと思ってんの?」
先生が拗ねたように、唇を尖らした。
その声に背中を押されるように、私はひとつ、呼吸を整えて――