第18章 「血と花の話をしましょう**」
「あー、あと……」
先生はそう言いかけて、途中で止まった。
私は首だけそっと動かして、後ろを振り向く。
見上げると、先生はいつもの調子でにこっと笑った。
「……やっぱ、言わない。が可愛すぎたってだけだから」
そう言って、ドライヤーのスイッチを落とした。
「はい、完了。さらっさらになりましたー」
「ありがとう……ございます……」
さらさらになった髪を優しく撫でてくれるその手がくすぐったくて、あたたかかった。
気づけば、ふわりと身体が浮かぶ。
「わ、ちょっ……!」
「大人しくする。どうせ、立てないんだから」
「っ……だ、誰のせいだと思ってるんですか……!」
ベッドまで運ばれて、そっと下ろされた。
先生が布団をめくって自然に潜り込んでくる。
柔らかい布越しに、先生の体温と鼓動が伝わってきた。
(……あったかい)
それだけで、なんでこんなに安心するんだろ。
少しだけ、欲張ってもいいかなって思えてくる。
「……あの、先生」
「今度……先生が仕事でいない時……電話、してもいいですか?」
言い終わると同時に、先生の胸元に顔を寄せた。
なんか、顔は見れなくて。
だけど――
「……」
名前を呼ばれたとたん、ぎゅっと抱きしめられた。
「電話してよ。ぜんっぜんして。むしろ、して」
「え……」
「僕もするから。めっちゃするから」
くすぐったいくらい近くで、そう言って笑う声が聞こえた。
「なんかさ、僕たち……中学生カップルみたいじゃない?」
「え……」
「ほら、僕たち付き合うのにも時間かかったし、初めてしたときも……いろいろあったでしょ」
「今までの相手は、そういうの無かったから……」
わかってた。わかってたのに――
(……そうだよね)
自分が子どもすぎて恥ずかしい。