第18章 「血と花の話をしましょう**」
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バスルームの換気扇が、低く唸っていた。
湯気の残る空気に包まれて、ドライヤーの音がやけに大きく聞こえる。
「動かないで。後ろ、まだ濡れてるから」
椅子に座ったまま、私は素直に言うとおりにしていた。
先生の指が髪をすくうたび、まだ火照った肌がじんわり熱を取り戻していく。
汗に、涙に……それ以外のもので、ふたりしてぐちゃぐちゃになって。
先生の宣言通り、立てなくなってしまった私にシャワーを浴びさせてくれて――
今はこうして、髪まで乾かしてもらってる。
鏡に映る自分を見ていると、自分のしてしまったことがだんだん蘇ってきた。
(……変な子って、思ったかな)
(言った方がいい? やめた方がいい?)
「……あの……」
小さく漏れた声は、ドライヤーの音にかき消されそうだった。
でも、先生はすぐに気づいたみたいで。
「ん?」
返ってきた声は、変わらずやさしい。
ドライヤーから流れる温風と一緒に、同じシャンプーの匂いがした。
「……なんで、私が……その……してたの、わかったんですか?」
視線は合わせられなくて、膝の上で手をぎゅっと組む。
すると、私の頭のてっぺんから、笑い声が落ちてきた。
「え、……あれバレてないと思ってたの?」
「っ……そ、そんなに……!」
「ドア開けた時の顔。あれでもう確信したよ」
「……っ、うそ……」
「目うるうるしてたし、顔火照ってるし」
――最悪だ。
(うそ、そんなの……自分じゃ全然、わかんなかった……!)
「忘れて!見なかったことにして!」って叫びたい。
(ほんと……恥ずかしすぎる……)