第18章 「血と花の話をしましょう**」
「……ってさ。ほんと素直じゃないね」
苦笑まじりの声と足音が、こちらへ向かってくる。
「寂しくなかったんなら、その目にうるうる溜めてるの、なに?」
「……っ」
言い返そうとしたが、言葉が出てこなかった。
うつむいたまま、唇を噛む。
「ていうかさあ、僕が出張中も――」
先生は一拍おいて、さらに続けた。
「全然、連絡ないんですけど?」
「そ、それは……先生、忙しいと思って……。迷惑かなって……」
絞り出すように言うと、すぐに言葉が返ってきた。
「は? 迷惑なわけないじゃん。むしろ――」
「通知鳴るたびに、かもって期待したのに」
(――え?)
思わず、顔を上げた。
(……先生も……?)
(そんな……そんなわけ、ないと思ってたのに)
なのに。
“かもって期待した”って。
(先生も……わたしのこと、考えてくれてたの……?)
信じたいのに、信じきれなくて。
「僕の通知欄、伊地知。次に伊地知、その次も伊地知。たまに学長」
「……」
「悠仁なんて、“先生元気~?”って電話くれたよ? いやー、やっぱ優しいなー、悠仁は」
「なのに、僕の彼女からは連絡ゼロ。 ショックで髪の毛白くなっちゃったよ」
「……髪は……もともと白いですけど」
「え?」
「な、なんでもないです……」
情けないくらい小さな声しか出なかった。
「一人でしちゃうくらい、僕のこと欲しいくせに」
「な……っ!」
(やっぱり……バレてる……!)
羞恥と驚きがごちゃまぜになって、顔が一気に熱くなった。
先生が一歩、また一歩とこっちに詰め寄ってくる。
後ずさったが、とうとう足がベッドの端にぶつかった。
「“先生に好きなだけ抱かれて、気絶するぐらいイかされたいです”って、顔にでかでかと書いてるよ」
「っな、な、なに言って! そ、そんなこと、書いてないです……っ!」
「僕、目がいいから。の顔に出てるの、全部わかるの」
「……っそ、そんなの嘘……」
先生の顔が近い。
こんなに近いと、本当に自分の心を読まれそうで。