第18章 「血と花の話をしましょう**」
(……う、なんか気まずい)
心の奥を見抜かれてるみたいで。
その空気が居た堪れなくて、焦って口を動かした。
「せ、先生いない間は……そうだ! 野薔薇ちゃんと買い物行ったんですよっ」
「あと、あの……虎杖くんの部屋で、みんなで映画とか! 観たりして……ゲームもしたりして。わ、わいわいと! 楽しかったなー」
「へぇ」
興味のなさそうな声。
完全に“ふーん、よかったね”みたいな温度。
(あ、あれ……反応薄い……?)
(話題、間違えたかな?)
先生は小さく息を吐いたかと思うと――
腰に添えていた手を離し、私を膝から下ろした。
「寂しくなかったんなら……よかったよ。じゃ、僕そろそろ帰るね」
「……あ」
思わず、声が漏れた。
でも、それ以上が続かなかい。
(……もう帰っちゃうの?)
(まだ……もうちょっと、話したかったのに)
次にこうやって二人で会えるの、いつになるか分からない。
まだぜんぜん足りないよ。
先生はベッドから立ち上がり、扉に向かう。
その背中を、私は目で追うことしかできなかった。
振り返った先生と視線が合う。
その唇に、自然と目が引き寄せられた。
(……今日は、キスもしないのかな)
先生が会いにきてくれた時から、どこかで期待してた。
その気持ちが、しゅーっとしぼんでいく。
「どうかした?」
先生の声に、はっとする。
「い、いえっ、おやすみなさい……!」
小さく頭を下げて、それ以上何も言えなくなった。
話したいことは、たくさんあったはずなのに。
結局、口から出たのは「おやすみ」だけで。
(……まだ、帰らないでって言えたら……)
そう思った瞬間、じわっと視界がにじんだ。
うつむいたまま、まばたきを繰り返す。
にじむ涙が落ちないように、必死で誤魔化した。
すると、先生が扉の前で突如立ち止まった。
「……はーあ」
大きく、ため息をひとつ。
その音に、思わず身体がこわばる。
どうしたんだろう、先生……
なんか、変なこと言っちゃったかな?
病院で、駄々こねたみたいだったから?
怒ってる……? 呆れてる……?
怖くて、顔を上げられない。
俯いたまま、固まっていると――