第18章 「血と花の話をしましょう**」
(さっきまで……会いたくて、寂しくて……)
(……ひとりで、あんなことまでしちゃったのに)
今は、その先生がすぐ後ろにいる。
体温を感じて、触れられる距離にいる。
(……どうしよう……嬉しい……)
自分の太ももが先生の膝に触れるたび、
さっきまで“寂しさ”で疼いてた身体が、また目を覚ましていくみたいだった。
頭にタオルがふんわりとかけられ、くしゃくしゃと優しく揉み込まれていく。
「の髪、綺麗だよね。なんか特別なケアとかしてんの?」
「っ……そ、そうですか? 特には……」
緊張で、声がわずかに裏返ったのが自分でもわかった。
たぶん、顔も赤くなってる。
タオル越しに、また優しく撫でられる。
先生に髪を乾かしてもらってるなんて、変な感じ。
申し訳ないような、でも、気持ちよくて。
少しだけ、まぶたが重くなる。
「いやー。今日行った店、掘り出し物だったね」
指で髪を梳くように滑らせながら、先生が満足そうに呟いた。
「馬刺しは食べ比べできたし、居酒屋なのに甘いものも充実してたし。僕的にはかなり高得点」
「そうですね。全部美味しくて……食べすぎちゃいました」
夕飯を思い出しながら、笑って答えると、
「……でもさ、、辛子レンコンは全然手つけてなかったでしょ?」
「っ……」
「もしかして、からし苦手?」
「……はい。わさびも……ちょっと、苦手で……」
「あ、お寿司もさび抜き派?」
返ってきたのは、ケラケラと笑う声。
そんなに、笑うことないのに……
今、絶対こどもだって思われてる。
「苦手ってだけで……食べられないわけじゃないんです」
語尾に力が入ったのが、自分でもわかった。
そう言った瞬間、先生が私の髪をまたくしゃくしゃと撫でてくる。
「可愛いねぇ、ほんと」
「も、もう……バカにして――」
そう言いながら、後ろを振り返る。
どうせ、いつものように意地悪く笑ってると思った。
けど――違った。
先生はただ、まっすぐに私を見てた。
ふざけた表情なんかじゃない。
あたたかくて、優しくて。
目が合った瞬間、心臓が跳ねる。