第22章 「棘と花** 〜前編〜 」
《。白鷺って子、永江恵奈の自殺に関わってるかもしれない。確証はまだないけど、気をつけなさいよ》
メッセージを送信したあと、そっと画面を伏せる。
胸の奥が、じんわりとざらつくような嫌な予感で満たされていた。
「野薔薇ちゃん、紅茶でいい?」
リビングから真澄の母親の朗らかな声が響く。
野薔薇はひとつ深く息を吸い、気配を切り替えるように声のする方へ歩き出した。
けれど心の片隅では、今まさに何かが動き出している気がしてならなかった――。
***
その頃、は白鷺美弥とともに、教室の片隅でクラス企画での衣装に目を通していた。
「ふふ……可愛らしいわね」
白鷺が穏やかな笑みを浮かべながら、ハンガーにかけられた衣装に指を伸ばす。
レースとリボンで飾られたスカートの裾をつまみ、そっと揺らした。
それは、黒地に白いフリルが映えるメイド服だった。
胸元にはふわふわのレース、短めのスカートはパニエでふんわりと広がっている。
腰には大きな白いリボン付きのエプロン、頭には犬耳のカチューシャ、そして腰には、愛嬌たっぷりのしっぽまで――。
メイド服の可愛らしさに、愛嬌のあるアニマル要素が加えられていた。
「これ……ほんとに、クラスのみんな着るんですか……?」
は苦笑いを浮かべながら、手にした衣装をまじまじと見つめた。
その表情には、どう見ても戸惑いしかなかった。
「ええ。票も多かったし、うちのクラスは“可愛さ路線”でいくみたい。 さんも、似合うと思うわ」
白鷺の視線が、の髪や輪郭をやわらかくなぞるように見つめる。
は小さく首を傾げながら、再び衣装に視線を落とした。
自分がこれを着ている姿を思い浮かべてみる――けれど、どうにもイメージが湧かない。
「……どうでしょう、私に……」
そう呟きながら、は曖昧に笑ってごまかす。
「じゃあ、確認用に、試着してもらってもいいかしら?」