第18章 「血と花の話をしましょう**」
「まあね。こんなのがゴロゴロ発生したら、呪霊大発生、間違いなしだよ」
先生の軽口が落ち着いたところで、七海さんが静かに視線を遺体へ戻した。
「……ただ、手掛かりがまったく無いわけでもありません」
「この遺体に籠められた呪力と照らし合わせれば、微かな残穢だけでも“大元”は辿れます」
先生が花の根元を覗き込みながら、ぼそっと言った。
「痕跡を隠すつもりはあったんだろうけど……」
「……雑ですね。逆に、こちらを誘っているようにすら見えます」
先生はふっと笑い、七海さんの肩へ腕を回した。
「今日はもう遅いし、明日、七海と僕でこの残穢を追うとしようか」
「……なぜ、五条さんが仕切るんですか」
七海さんがわずかに眉をひそめた。
「わ、私も行きます!」
気づけば、口が動いていた。
自分の声が静かな安置所に響く。
「私も……連れて行ってください」
視線を逸らさずに、先生たちを見つめる。
けれど、先生はすぐに首を横に振った。
その顔には、笑みも冗談も浮かんでいない。
「。今回は連れていけない」
短く、けれど断固とした口調だった。
「っ……どうしてですか!」
反射的に叫ぶように返していた。
危険だから? 役に立たないから?
それでも、この場で引き下がるなんて――できるわけがなかった。
「諏訪烈の仕業なら、君は奴にとって格好の餌だからだよ」
「……でも」
唇が震えて、言葉の続きを呑み込んだ。
俯いた視界に、諏訪烈の顔がちらつく。
初めて会ったはずなのに、彼はまるで私のことを――
何もかも、知っていたように話していた。
名前も、先生のことも、花のことも。