第18章 「血と花の話をしましょう**」
「ですが、この事件がさんと完全に無関係とも言い切れない」
「この白い花、“コピー”にしては出来すぎています。おそらく、あなたの力を熟知している者が意図的に再現したと言っていいでしょう」
その言葉に、空気が張り詰めた。
「あいつしかいないだろ」
先生の声が低くなる。
「あいつ、とは……?」
七海さんが静かに問い返す。
「名前は諏訪烈」
先生は両手のひらを上に向けて、困ったように笑った。
「分かってんのは、に何かとちょっかい出してくるストーカー野郎ってことだけ」
ふざけた口調とは裏腹に、その目には明確な警戒の色があった。
「目的も正体も不明。けど――」
言いかけて、先生は私の方へと視線を向ける。
「ただのストーカーじゃない。おそらく、自身、あるいは花冠の魔導を……何かに利用しようとしてる」
先生は次に遺体の方へと視線を移した。
「それにしても……死体を植物に変えるなんて、何のつもりなんだか。新しい環境保護活動か?」
苦々しげに吐き捨てるような声だった。
「……私も、その点に関しては気になりました」
七海さんの言葉を聞きながら、私はもう一度白い花を見つめた。
(確かに。先生たちの言うとおりだ)
死体を植物みたいに変えて、わざわざ“私の花そっくり”のものを咲かせて。
「私の力が危険だって……まわりに思わせるため、とか」
「それも考えたけど、なんかしっくりこないんだよね」
「危険だと思わせたいなら、もっと派手にやるでしょ。わざわざ、こんな手間かける必要ないし」
先生の言葉に七海さんも静かに頷き、眼鏡のブリッジに指を添える。
「相手の狙いはまだ分かりませんが――このような事例が増えるのは、呪術師として止めなければいけません」
「死体が植物化するなど、非術師の恐怖を煽るには十分ですから」
その言葉に、先生が肩をすくめて笑う。