第18章 「血と花の話をしましょう**」
「これはの花じゃない。“花冠の魔導”で咲く花は、魂を送るためのものだよ。未練や悲しみを解き放って、向こう側に還す……そういう、力」
「でも、これは――」
先生がわずかに眉をひそめる。
「逆に、“生”に執着してるように見える」
その言葉のあと、先生はちらっと七海さんの方に視線を向けた。
「の力は、まだ分かっていないことの方が多い。でも、これだけは言える。これは、の花の“コピー”だよ」
「ま、七海も本物を見ればわかるさ。の花は、もっと――」
そこまで言って、先生は言葉を切る。
代わりに、彼は私の肩に置いた手にそっと力をこめてきた。
「誰かの痛みを全部背負おうとするわけでもないし、世界を救いたいなんて大げさな願いでもない」
「目の前の人が泣いていたら、手を伸ばす。それを迷わずできるのは、当たり前のようで当たり前じゃない。の花は、そういう優しさから咲くんだよ」
私は先生の横顔を見上げた。
その言葉が、じんわりと胸に沁みていく。
(……まだ分からないことだらけなのに)
悠蓮のこと。
力のこと。
恐れる人も、軽蔑する人も、まだたくさんいる。
自分の力が誰かを傷つけるかもしれないって、不安になる瞬間もある。
でも――
(先生は、違う)
ちゃんと見てくれる。
曖昧なところも、怖い部分も、全部ひっくるめて受け止めてくれる。
(私、何を不安がってたんだろ……)
胸の奥で固まっていたものが、ゆっくりほどけていく気がした。
「……てか七海さ」
先生がぽつりと口を開いた。
「に聞いたの、わざとでしょ。お前なら、この死体との力は関係ないって、とっくに気づいてたはずだろ」
「……え?」
思わず、七海さんの方を見る。
「すみません。試すような真似をして」
「あなたの力が原因とは、私も思っていません」
七海さんはわずかに息をついてから、私を正面から見据えた。