第18章 「血と花の話をしましょう**」
「しかも僕は日本で二番目に“いきなり団子”が好きな男だよ」
先生はピースサインをして満面の笑み。
七海さんが資料から目を離し、ちらりとこちらを見やる。
「……ちなみに、“いきなり”は熊本弁で“突然”の意味です。突然の来客でもすぐ作れることから、その名がついたらしいです。生のさつまいもを輪切りにして包んで蒸す、という調理法も簡単だから、“いきなり”というわけです」
「そうなんですね、七海さん物知りですね」
私は思わず感心して頷く。
「なんで、いつも即答できんの? 怖ッ……」
先生が目を丸くして七海さんを見る。
「逆になんで知らないんですか、日本で二番目に“いきなり団子”が好きな男が」
そう返す七海さんに、先生は涼しい顔で肩をすくめた。
「所詮、二番目は二番目だよね」
先生はスマホを取り出し、慣れた手つきで画面を操作する。
「……お、あった。ホテルから徒歩五分。いきなり団子テイクアウト可」
「、熊本着いたら寄ろうよ」
「先生、任務は……?」
「決まりね!」
嬉々としてスマホをしまう先生。
「さんの言う通り、一応、仕事で来ているのですが」
「じゃあ七海は食べなきゃいいよ。僕とで熊本を満喫するから」
先生が笑いながらそう言い放つと、七海さんは一拍置いて静かにため息をついた。
「……別に、食べないとは言ってません」
「食うんじゃん!」
先生が即座にツッコみ、七海さんは視線だけで冷たく応じている。
私は二人のやりとりを聞きながら、そっと顔を窓の方へ向けた。
遠くの景色が、流れるように後ろへ過ぎていく。
昨日、先生から聞かされた今回の事件が頭をよぎる。
死んだ人の心臓に咲いていたという、白い花。
まだ、何も分かっていないけど。
私は、そんな花を咲かせた覚えなんてない。
でも……知らないうちに、誰かの“終わり”に関わっていたのかもしれない。
静かに、自分の手を見る。
花冠の魔導は、魂を送るための力。
先生も「の力はあったかくて綺麗だよ」って言ってくれた。
そう思ってたのに。