第18章 「血と花の話をしましょう**」
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新幹線の窓に映る空が、少しずつ色を失っていく。
遠くの山々が重たげな雲に覆われ、淡く滲んで見えた。
私の隣には、五条先生。
通路を挟んだ反対側には、七海さんが静かに座っている。
先生は背もたれにゆったりと体を預け、窓の外を見つめたままぼそっと呟いた。
「温泉入りたいなあ。熊本だし」
思わず顔を上げる。
隣では、先生がにこにこしている。
「くまモンに会えるかな。ね、」
「……くまモン、可愛いですよね。先生好きそう」
私は、思わず苦笑いを浮かべながら答えた。
「五条さん、観光じゃないんですよ」
通路の向こうで、七海さんが資料を閉じずに冷静に突っ込んだ。
「えー、ちょっとぐらい楽しんだっていいじゃん。僕、熊本初めてなんだよねー」
先生はまるで修学旅行に来ている高校生のような口調でそう言う。
七海さんは無言で視線を落としたまま、明らかに呆れていた。
「私はさんの同行は認めましたが、五条さんにはお願いしていません」
「あれ、そうだっけ?」
先生はまったく動じず、悪びれた様子もなく首をかしげる。
「こうやって任務に付き添うのも指導の一環さ。生徒のために動くなんて、我ながら教師の鑑だね」
「ま、案外僕も多忙な日々に疲れて、バカンスに来たくなっただけかもしれない」
七海さんは静かに視線を上げると、わずかに眉をひそめた。
「そう口に出した時点で、本命は違うわけですが……」
「あ、七海。“いきなり団子”の“いきなり”って、なんで“いきなり”なの?」
「人の話を聞いてください。言うだけ無駄でしょうけど……」
「、知ってる?」
「……“いきなり団子”って何ですか?」
「え、、マジで?」
先生はこちらに体を向けて、やけに真剣な顔になった。
「いきなり団子ってのはね、輪切りのサツマイモをあんこと一緒に小麦粉の生地で包んで蒸した、熊本名物のホカホカスイーツなの!」
「へ、へえ……」