第18章 「血と花の話をしましょう**」
「締め上げてないよ。ちょっと目隠し外しただけ」
「彼なら、それで充分でしょう」
五条は肩をすくめるが、顔つきはどこか不満げだった。
「わざわざ“一級呪術師”のオマエを派遣するのに、僕に何も言わないってさ。おかしくない?」
「どうせまた、お偉方のジジイが都合の悪い案件隠してんだろ」
七海はため息をひとつ吐いて、皮肉気に言う。
「……それだけ頭が回るなら、自分で調べていただきたいですね」
すると五条はニヤリと笑い、
「不可能じゃなくても、面倒なことは後輩使うのが一番手っ取り早いんだよ」
「……」
七海は短く、しかし重い溜め息をついた。
「――“死者の蘇生”です」
五条の動きが止まる。
「……なんて?」
珍しく、聞き返す声音にはわずかに戸惑いがにじんでいた。
七海は、一拍置いて言葉を選ぶ。
「正確に言えば、“死者の植物化”といったほうが近い」
「死亡確認後も腐敗が一切見られず、全身の血管と臓器が根や茎のように変質していた。さらに、心臓の位置には一輪の花が咲いているという報告です」
「……花?」
五条が眉をひそめる。
「白い花が心臓から肋骨を割って外に露出していて……」
七海は一瞬だけ言葉を躊躇ったが、静かに続けた。
「さんが魔導を使用時に発現した、あの“白い花”と、同一のものと思われます」
その瞬間、五条のまなざしがわずかに揺らいだ。
白い花。
あの夜、の花冠の魔導が生み出した、あまりにも穢れなき光景。
美しかった。
儚げで、やさしくて、まっすぐで。
という存在そのものが、あの花にそのまま現れた――
そんな印象だった。
でも、この先にあるものが“の力の本質”だとしたら……
ただ「愛している」では済まされない。
「守る」と口にするには、あまりに深く、あまりに重い。
五条悟としても、術師としても、覚悟を問われる。
ソファの背にもたれながら、五条は天井を仰いだ。
「ったく……デートはまたお預けか」
冗談めいた言葉は、乾いた空気に溶けて消える。
冷房の風が静かに流れる中、二人の間に長い沈黙が落ちた。