第18章 「血と花の話をしましょう**」
「でもさ」
「“死んだら終わり”って割り切れるほど……人間、単純じゃないだろ」
七海は目を伏せる。
「どれだけ時間が経っても、どれだけ理屈で納得しようとしても――“もう一度”とか、“あの時、もしも”とか。そういうのに、しがみつくことって誰だってあるでしょ」
「……」
「それを負の感情って呼ぶなら、僕たちが戦ってんのって、結局、人間の弱さそのものなんじゃない?」
七海は応えなかった。
だが、その沈黙には拒絶も否定もない。
「ま、難しい話はさておき――」
五条は突然、パンッと手を叩いた。
そして、テレビ画面を指さして言い放つ。
「あいつより僕の方が、イケメンだと思わない?」
七海は一瞬だけ黙り、やれやれと言いたげに答えた。
「須和 清仁ですね。国立先端再生医療センター所属の主任研究員。まだ三十代ですが、再生医療分野では世界的に注目されています」
「その甘いマスクで女性人気も高い。医療界のアイドルですよ。次期ノーベル賞候補というのも、さらに拍車をかけているようです」
「七海、詳しいね? もしかしてファン?」
「違います」
即答だった。
だが五条は、それを聞いてますますにやける。
「でも、サインもらったら額に入れて飾るでしょ?」
「飾りません」
「でも写真集は買うよね?」
「出てません」
「じゃあ、僕のサイン要る?」
「もっと要りません」
「僕のサインをもらった人は感動のあまり泣き笑い。嗚咽のあまりゲロを吐くものも現れ――最終的に地球温暖化も解決する」
そう言って、五条は自信満々に親指を立ててみせた。
「黙っていれば、多少は賢く見えるものを」
「誉めても何も出ないよ〜」
そう言って、五条はけらけらと楽しげに笑っていた。
「……で?」
七海は新聞をたたみながら言った。
「五条さん、私とおしゃべりしたくてここにいるわけではないでしょう」
笑いを収めた五条が、ソファからぐいっと上体を起こす。
そして、そのまま七海のほうへ視線を向け、
「お前が行く、今回の任務。僕、詳細聞いてないんだけど?」
七海は、静かに新聞を脇に置いた。
「また、伊地知くんを締め上げて聞き出したんですね?」