第18章 「血と花の話をしましょう**」
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画面には、落ち着いた声の男が映っていた。
背景には国立先端再生医療センターのシンボルロゴと講堂のライト。
「再生医療と細胞分化における新機構の報告」と書かれた演題が、小さくテロップで流れる。
「がんとは何か。多くの方は、“細胞の暴走”と答えるでしょう」
男はゆっくりと壇上を歩く。
視線の先には聴衆。
だが、その表情は誰か一人だけに語りかけているようだった。
「けれど私は、こう考えています。がんとは、“死を拒む意志”そのものです」
「細胞は死を恐れ、分裂をやめず、しがみつくように生きようとする。それを、私たちは“病”と呼ぶ。ですが……それは、本当に“異常”でしょうか」
スライドが切り替わる。
映し出されたのは、植物の断面図と、心臓細胞の再構成映像。
赤く光る細胞群が再び形を作る。
「植物は切られても枯れても、再び芽吹きます。死なない。あるいは、死を回避する構造を持っている」
「私たちはその機構を、一部の植物に見出しました。“細胞死抑制因子”――自然界では稀なこの因子を、ヒトの壊死細胞に適用した結果……放射線で壊れた心筋組織が、12時間で再生を開始したのです」
聴衆がざわついた。
「奇跡でも、神話でもない。これは、科学が辿り着いた必然です」
男の声は淡々としていたが、微かに熱があった。
「科学は神を超えてはならない、とよく言われます。ですが、私は思うのです」
「“命”という構造が、神に与えられたものであるなら。それを理解し、再現し、正しく導くことは、人の責務なのではないかと」
「死は欠陥です。私は、それを修正したい。恐怖からではなく、愛のために」
そう言った時、男の目が一瞬だけ、何かを映すように揺れた。