第17章 「花は蒼に濡れる**」
恥ずかしさで頭の中がぐるぐるしていると、
先生が手にしていたスマホをぽいっと脇へ放り投げた。
そして、片腕を伸ばし手招きしてくる。
「ほら、もベッドおいで」
その声音はいつもより柔らかくて。
優しいのに、ずるくて、断れる隙がどこにもない。
(……あの部屋に入ったら)
心臓がうるさい。
一歩ずつ近づくたびに、空気が熱を帯びていく。
ベッドにいる先生の瞳がまっすぐこちらを見ていた。
あの蒼い目に見つめられるだけで、息をするのも忘れそうになるくらい緊張して――
なのに、下腹のあたりがじんと熱くて。
自分でもよくわからない感覚が、奥のほうでじわじわ広がっていく。
「……っ」
どうしてか太ももが勝手に動いて、きゅっとすり寄せてしまった。
(……私の体、さっきから変だ……)
(京都で……触れられたときと似てる……)
首元、胸、そして――
太ももの先の、一番奥
どこに触れられても気持ちよくてどうしようもなくなった感覚が、体のどこかにまだ微かに残ってる気がする。
思い出そうとしたわけじゃないのに、体が勝手に覚えてて――
(……また、あんなふうになったら……)
期待と少しの怖さとで喉がかすかに鳴った。
気づけば、先生の手に引かれるようにそっと足が動いていた。
指先が触れそうな距離まで近づいたとき――
私はそっと、その手に自分の指を重ねた。
ふっと笑う気配がして、先生の手が私の手をぐっと引いた。
そのまま寝室の中へと引き込まれる。
リビングよりも、ほんの少しだけ室温が高く感じる。
その熱気すら、なぜだか心地よくて――
背後で音もなく扉が閉まった。
その瞬間、世界がゆっくりと切り替わる。
この部屋には、私と先生と、やがて蒼に濡れる花の気配だけ――。