第17章 「花は蒼に濡れる**」
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先生の手に引かれて、私はベッドのすぐそばまで歩を進めた。
恐る恐るベッドの端にそっと手をかける。
きし、とマットレスが小さく鳴いた。
片足を慎重に乗せる。
そしてもう一歩――
ゆっくりとベッドの上へ身体を移した。
距離が一気に近づく。
先生の体温が空気から伝わってくる。
「……」
名を呼ぶ声が優しく響いた。
先生の指が私の手をそっと握り直して――
次の瞬間、ぐっと強く先生の胸元に引き寄せられた。
(……っ!)
先生の体温と匂いに包まれて、息が止まりそうになった。
胸板に頬が触れ、心臓の音がすぐそこで響いている。
先生の腕が背中へ回され、包み込むように私を抱きしめてくる。
「……僕と同じ匂いする」
耳元で低い声が笑った。
先生の鼻先が私の髪をすり抜け、首筋をかすめる。
息が触れたところが、ぞくっと震える。
そのまま耳の近くで――
「あのタイミングで、待ってはないでしょ」
(――っ!)
耳が先生の息がかかって、じんじんする。
「……ご、ごめんなさい」
必死に声を絞り出したけど、まともに顔なんて上げられない。
「まぁ、いいけどね」
余裕たっぷりな声色で、先生がそう返す。
でもその声とは裏腹に、背中の腕がさらにぐっと強くなる。
まるで逃げ場を塞ぐように、きゅっと抱き込まれて。
先生の唇が耳のすぐ近くで動く。
「僕に舐められたくて、綺麗にしてきたんでしょ?」
(――!?)
言葉の意味が頭に届くより先に、顔が一気に熱くなった。
「な、なに言って……っ」
声が震える。
けれど先生は、そんな私の反応すら楽しんでいるようだった。
ふいに、頬にかかっていた髪にそっと指が触れる。
そのまま指先は耳の後ろへと滑り込み――
髪をゆっくりとかき上げた。
先生の指が通りすぎたあと、熱が残る。
耳の裏をかすめていった感触に、鼓膜の奥がじんと疼いた。