第17章 「花は蒼に濡れる**」
リビングのドアを開けると、さっきまでの空気の温度と少しだけ変わっていたのに気づいた。
(……あれ?)
視線で部屋をぐるりと見回す。
ソファにも窓際にも、先生の姿がない。
足音を忍ばせるように、リビングをゆっくり進むと――
「あ、。こっちこっち〜」
間延びした声が奥の方から聞こえた。
思わず声のした方を振り返る。
寝室のドアが開いていて、その奥に――
先生がいた。
ベッドの上。
上半身を起こして、枕を背にスマホをいじっている。
制服の上着はすでに脱いで、ベッド脇に丁寧に畳まれていた。
身体のラインにぴたりと沿う黒のTシャツを着ていて、締まった胸板や肩の張りが薄布越しにうっすらと浮き上がって見える。
「早かったね。……って、制服着てんじゃん」
その目が足元から胸元までを、ゆっくりと這うように辿って――
いたずらっぽく目尻を細めた。
「なんだ、バスタオル巻いて出てくるの期待してたんだけどな〜」
「――っ!」
やっとシャワーを浴びて落ち着いたと思ったのに、あっという間に顔が真っ赤になる。
「そ、そんなことできませんっ!」
思わず語尾が跳ね上がる。
(……う、でも……)
バスタオル一枚のほうが正解だったのかもしれない。
“覚悟できてます”って、示せたのかな。
でも、それって恥ずかしすぎて死ぬ。
(やっぱ無理……!)