第17章 「花は蒼に濡れる**」
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シャワーのレバーを閉め、水気をとるために髪をきゅっとしぼる。
(……ふぅ。ちょっと落ち着いた……かも)
ワゴンの引き出しから、ふわふわのタオルを取り出して、肩から順に丁寧に身体を拭いていく。
けれど――
(……ん、そういえば)
タオルで足元をぬぐったとき、視線の先に目に入った。
ワゴンの上に置かれた、脱いだ下着と制服。
(これって……また着るの?)
脱ぐ前はただ必死だったけど、今になって途端に現実が押し寄せてくる。
体はきれいに洗ったばかり。
汗も匂いもさっぱり落としたのに――
(でも……着なかったら……)
(タオル巻いて、先生のところに戻ることになる……)
どうせ脱がされるんだから、着る意味なんてないのかもしれない。
でも、着ないままでいるのも……
なんだか、“やる気満々”みたいでもっと恥ずかしい。
(……どっちが正解なの……?)
下着を持つ手が震える。
(だったら、いっそ……裸で……いや、バカ)
頭の中で、着る理由と着ない理由をぐるぐる考える。
でも、どれもしっくりこなかった。
(……わかんないよ。どんな格好で戻るのがいいの?)
ゆっくりと鏡の前に立った。
そこに映る自分は頬を赤く染めながらも、まっすぐこちらを見ていた。
小さく息を吸い、下着を持った手に力をこめる。
(……うん、さすがに服は着よう)
シャツのボタンを一つずつ留めていくたびに、胸の奥がそわそわする。
襟元をそっと整え、目を閉じた。
まぶたの裏で先生の顔が浮かぶ。
( 心臓の音……うるさい。大丈夫、落ち着いて)
そう思いながら、ドアに手をかける。
震える指先をぎゅっと握りしめて――。
ゆっくりと先生が待つ部屋へと歩き出した。