第17章 「花は蒼に濡れる**」
(それで、僕の名前を呼んでほしい)
すがるみたいに。
許しを請うみたいに。
心から本気で僕を求める声で。
それで――
(“僕からは逃げられない”って思わせたい)
どこにも行けないって、
僕がいないとダメだって、
身体の芯からわからせたい。
(……こんな僕をが知ったら……どう思うんだろ)
引くかな。
怯えるかな。
もう触らないでって、そう言われるかな。
(でも――)
それでも、止まらない。
触れたくて、抱きたくて、
愛したくて、壊したくなるくらいに愛おしくて。
バスルームのドア越しに、微かに響く水音。
そのたびに、頭の中で濡れたの身体が浮かぶ。
「……シャワーの音までエロく聞こえるって、どういうこと……」
髪が背中に張り付いて、白い肌に水が流れて――
鎖骨のあたりに滴が伝って、胸元に吸い込まれていく。
(鎖骨のくぼみを舌でゆっくりなぞって、首筋から胸のふくらみまで跡を残していく。そこ、絶対弱い)
(下着ずらして、ぬるっと濡れたところに指を沈めたら、、どんな声出すかな)
想像の中のが恥ずかしそうに振り返る。
濡れた睫毛の奥、潤んだ瞳。
その視線だけで、全部持っていかれる。
(あー……今日優しくできるかな、僕)
優しくしたい。
ちゃんと大事にしたい。
不安にさせるようなことはしたくない――
……のに、
頭の中ではもう、の柔らかいところ全部に手を伸ばしてる自分がいて。
甘い声も、涙も、全部欲しがってる自分がいて。
「……壊しちゃったら、ごめん」
そう呟いた声は静かに流れるシャワーの音に、そっと溶けていく。
そして五条はその音にじっと耳を澄ませたまま、ソファの背に深く身を沈めた。