第17章 「花は蒼に濡れる**」
(……京都の時、一度見られてるけど……)
(あの時は……意識する余裕なんてなかったし)
先生がさっき言った言葉が頭に浮かぶ。
『……本気でのこと、抱くよ?』
顔が一気に熱を帯びた。
頬だけじゃない。
首も、耳も、体の内側までも。
「……~~っ!!」
恥ずかしさと混乱が一気に押し寄せてきて、
私はその場で首を何度も何度も、ぶんぶんと振った。
(とにかく汗を流して、落ち着こう)
鏡の中の自分は顔を真っ赤にしながらも、どこか何かを期待してる。
それが余計に恥ずかしくて、もう何も考えたくなくて。
私は逃げ込むように、シャワールームの扉を開けて中へ入った。
銀色のレバーをひねる。
水が勢いよく流れ出し、すぐにあたたかな湯に変わる。
頭の上から降りそそぐお湯に、少しずつ落ち着いていく。
でも、鼓動だけはなかなか静かにならなかった。
『あの男も、おまえの中の熱も、すべて呑み込め』
……それは、悠蓮が以前わたしに言った言葉。
あの時はうまく意味を飲み込めなかったけれど――
(……今がそのとき……なのかな)
ぼんやりとそんなことを考えながら、シャワーを止める。
曇った鏡に手を伸ばし、指先で静かに表面をなぞる。
湯気が晴れて、鏡の中に――わたし自身が、姿を現す。
赤く火照った顔。
濡れた髪が肩に張りついている。
でも――
その目の奥が一瞬だけ、“翠”に染まった気がした。
(……え?)
思わず瞬きをする。
見間違いだったのか、次に見たときにはもう元の色に戻っていた。
(気のせい……だよね)
そう思いたくて、心の中で何度も繰り返す。
でも、どこかでわかっていた。
すでに、少しずつ。
自分の奥にある“なにか”が、動き始めていることを――。