第17章 「花は蒼に濡れる**」
勢い任せに、近くにあったソファのクッションを手に取って、
「ぶっ……!」
先生の顔に思いきり押し当てた。
「うぉ、ちょっと、!? く、くるし……」
先生の声が、クッション越しにくぐもって聞こえる。
それでも私は手を離せなかった。
「……ばか……っ」
クッションの影に顔を隠していても、滲みそうになる涙をごまかせるわけじゃなかった。
「……汚いから、恥ずかしい……本当に……やだ……」
そう絞るように出した声は、もうほとんど泣き声だった。
「……はぁー、もう」
先生がわざとらしく大きくため息をついた。
「って、ほんとに……」
その先を言わず、先生は黙り込んだ。
その沈黙でまた泣きたくなる。
(……めんどくさいって思われた?)
(子供だって呆れられてる?)
恥ずかしさと、申し訳なさと、不安がぐるぐる渦巻いて。
どうしていいかわからなくなって、私は黙ったまま、ただ下を向いていると――
先生が自分の顔に押し付けられたクッションをどかしながら言った。
「いいよ、行っといで。シャワー」
その声は、呆れと苦笑が混ざっていた。
怒ってるわけじゃない。
けれど、困ってはいるような。
「廊下出てすぐ右がバスルーム。タオルは中のワゴンの上から二番目に入ってるから」
「……っ、わ、わかりました……」
返事は情けないくらい小さく、かすれていた。
私はそっとクッションから手を離し、俯いたまま立ち上がる。
「待って、」
歩きかけた瞬間、手首をそっと掴まれた。
振り返ると、先生がまっすぐにこちらを見ていた。
「……あんまり遅かったら」
先生がふっと笑みを浮かべる。
けれどその目は、じっと熱を帯びていて――
「バスルーム乗り込んで……そこでやるよ?」
「っっっ……!!」
それはもう、爆弾みたいな破壊力だった。
一気に全身が熱に包まれる。
「すぐ戻りますっっ!!」
バタバタと音を立ててバスルームへ駆け込む背中に、
先生の低く笑う声が追いかけてきた。