第17章 「花は蒼に濡れる**」
温かくて、甘くて――
たったそれだけで、私はもう、
何もいらないって思ってしまうほどだった。
(先生とのキス、好き)
最初は触れるだけ。
けれど、ほんのわずかに角度を変えて、
もう一度、深く――
「……っ、ん……」
息が漏れた。
唇の感覚だけで、身体がとろけそうだった。
先生の指がそっと動いた。
制服のスカートの裾に触れ、ゆっくりと膝のあたりまで撫で上げてくる。
(――っ)
心臓が一気に跳ね上がる。
(……あっ、まって……)
ふと、よぎった。
今日の外に出るだけで汗が滲む暑さ、電車に間に合わなくて走ったこと。
それに、エアコンが壊れてた港までのバス。
唇が離れた隙に、私は勢いのまま口を開いた。
「――っ先生、ちょっと、待って!」
キスを中断された先生が、わずかに身体を起こして私を見下ろす。
ほんの少しだけ、眉が寄っていた。
「……え、何?」
低く呟くその声に、かすかに不機嫌の色が滲む。
続きを邪魔された少年みたいな、少し拗ねた目だった。
「……シャワー……浴びたい、です」
一瞬、空気が止まった。
先生は目をぱちくりと瞬かせて――
「……今?」
少し間の抜けた声に、私は思わず頷いてしまう。
「……だ、だって今日、暑くて汗かいたし……バスの中も暑かったし……」
言い訳のように早口で言いながら、顔がまた熱くなっていく。
「……もしかしたら、汗くさいかも、で……」
どんどん声が小さくなっていく。
先生はソファの背に片肘をついたまま、呆れたようにその目が少しだけ細められていた。
「僕、別に気にしないよ?」
そう言った次の瞬間、先生が顔をぐっと近づけてきた。
「あっ!? ちょ、ちょっと、やめ――!」
パニックだった。
先生の顔があっという間に、私の首筋のあたりに近づいてくる。
そして、嗅ぎ取るように深く息を吸い込む気配が、肌のすぐそばに伝わってきた。
「……ん、の匂い」
「てか、汗くさいとか、逆にそそるんだけど?」
「~~~っ!!」
羞恥心が爆発した。