第17章 「花は蒼に濡れる**」
「――っ」
ビクッと、体が跳ねた。
ほんの、ほんの一瞬だったのに。
まるで背中を撫でられたような感覚に、肩が強張った。
「……あー、ごめん。驚かせた?」
先生はそう言って、触れた髪を指で優しくつまみ、まるでその感触を名残惜しむように、ゆっくりと手を引いた。
「そんなに緊張しないでよ」
「がああ言ってくれただけで、僕は嬉しいから」
その目が、横からそっと私を見た。
「無理する必要はないよ」
そう言ったあとで、先生はゆっくりと視線を上に逸らした。
額に手をあてて、天井を仰ぐように顔を上げた。
「……って言いたいとこなんだけどさ」
ぽつりと零れた声。
けれどその声には、いつもの軽さとは違う熱が滲んでいた。
「――正直、今、のこと抱きたくてたまんない」
その言葉に思わず目を見開いて、先生の横顔を見る。
けれど先生はこちらを見ようとせず、
額にあてた手の隙間から、少しだけ苦笑をこぼしていた。
「いやなら……はっきり言って」
その声は熱を孕んでいて、それでいて――どこか苦しげで。
静かに降ろされた視線が、今度はまっすぐ私を見た。
その青い瞳の奥には隠しようのない衝動と、それを抑える理性がせめぎ合っていた。
(せ、先生……)
そんな先生の顔がどうしようもなく愛しくて。
胸がきゅっと締めつけられる。
でもすぐに言葉にできなくて、唇が小さく震える。
(あの言葉に、嘘なんてひとつもなかったけど――)
気持ちがうまく整理できているわけじゃない。
怖くないって言ったら、嘘になる。
先生のことが好き。
もっと近くにいたいし、触れていたい。
ぎゅってされたいし、いっぱい甘えたい。
(……でも、それだけじゃない)
胸が苦しくなるほど、ドキドキして。
さっきみたいに髪に触れられるだけで、体の奥がじんわり熱くなる。
(これって……)