第17章 「花は蒼に濡れる**」
「、手足、両方一緒に出てるよ」
「……えっ?」
思わず動きを止めると、先生は肩を揺らして笑いながら、指先で私の足と手を交互に指し示す。
「緊張してんの?」
「あ……っ」
一瞬で顔が熱に包まれた。
あわあわと手を振って否定するけれど、先生はますます愉快そうに笑っていた。
「可愛すぎて、早く食べちゃいたい」
そのひと言で、さらに沸騰した。
頭のてっぺんまで真っ赤になった気がして、
とてもじゃないけどもう先生の顔なんて見られなかった。
「……ッ、な、なに言って……っ」
視線は泳ぐし、手は落ち着かないし、
もはや全身が挙動不審だったと思う。
そんな私の様子を見て、先生はまた肩を揺らして笑った。
声を押し殺すみたいに、でも堪えきれないって顔で――
目元を細めて、ほんとうに楽しそうに。
「本当、って……いじりがいあるよね」
「また……からかって……っ」
唇を噛んで、少しだけ睨むように顔を背けた。
(からかってるの、わかってる。わかってるけど……!)
それでも、耳の先まで熱いのはどうにもならなくて。
視線を落としたまま、私は小さくむくれて呟いた。
「……先生、ほんと、いじわる……」
すると隣で、また小さく笑う気配がした。
「そういう顔されると、もっと言いたくなるんだけど」
私はもはや逃げるようにソファに座り込んで、
水のラベルをじっと見つめながら、心の中で叫んだ。
(も、もうムリ……顔から湯気出そう)
(絶対いま、こいつ意識してるって思われてるよ……!)
けれど、その隣にゆっくりと腰を下ろす気配に、
鼓動はさらに速くなっていく。
すぐ横に先生の横顔がある。
鼻先をかすめるように、先生の匂いがふっと漂ってきた。
(……近い)
緊張と恥ずかしさで、吸った息を吐くのを忘れそうになる。
その瞬間――
頬の横を通って、さらりとした指先が私の髪に触れた。