第17章 「花は蒼に濡れる**」
(それで、先生がこの部屋に連れてきてくれて……)
ふと想像してしまう。
このベッドで先生の腕の中にいる自分。
肩を抱かれて、額を重ねられて、唇を重ねて――
真っ白なシーツの上で、そっと名前を囁かれて。
(……やさしく、触れられて……)
思わず、息を呑んだ。
次の瞬間、頭まで一気に熱がのぼるのがわかった。
( なに想像してんの、私っ!!)
一瞬でも浮かべてしまった光景を打ち消すように、慌てて首を振る。
さっきまで平気だったはずの足元が、なんだかふらつく気がして。
バカみたいに脈が速くて、顔から火が出そうだった。
(……意識しすぎ、ほんともう……っ)
なんとか落ち着こうとするけど、
頭の中でさっきの映像がちらちら再生されて、思わず自分で自分を小突きたくなる。
(やめてやめて、ほんとムリ、恥ずかしい……!)
そのとき、後ろから声がした。
「、水でいい?」
「っ――あっ、は、はいっ!」
思わず変な声が出てしまって、背筋がぴんと伸びた。
先生がキッチンの方からこちらを覗いていて、
私は何事もなかったかのように慌てて視線を窓の夜景へ向けた。
(……落ち着いて、私)
(まだなにも、始まってないから……!)
けれど、耳の先まで熱いのはごまかせなかった。
「はい、どうぞ」
差し出されたのは、冷たいペットボトルのミネラルウォーター。
受け取った瞬間、指先にひやりとした感触が走って、
その冷たさが、火照っていた頬まですーっと届く気がした。
「……ありがとうございます」
うまく言えたつもりだったけど、
声が少し震えてしまっていなかったか気になって、こっそり唇を結び直す。
先生はそんな私の様子を気にすることもなく、リビングを歩きソファの前に立つ。
「座ったら? 立ちっぱも疲れるでしょ」
そう言って、手のひらでソファの背もたれをぽんぽんと叩いた。
革張りのシンプルなソファ。
黒に近いグレーの色味が、部屋の雰囲気とよく馴染んでいる。
「……じゃあ、お言葉に甘えて……」
私はおそるおそる、ソファに近づいた途端――
「ぷっ……」
くすっと、笑い声が聞こえた。