第16章 「心のままに、花が咲くとき」
(あと、ちょっと……)
先生の唇がすぐそこにある。
温度も、息遣いも、全部感じられる距離。
鼓動の音だけが、耳の奥で強く響く。
小さく息を吸い込んで、そっと目を閉じる。
そして――
ゆっくりと、唇を重ねた。
「……ん」
触れたのは、ほんの一瞬。
(……わ、しちゃった……)
自分からキスしたっていう事実が、今さらになって実感として押し寄せてくる。
嬉しいような、恥ずかしいような……
でも、どこか誇らしいような。
(先生、どう思ったかな……)
顔を離し、目を開けた瞬間、先生の表情が変わっていた。
いつもの笑みは消えていて――
「……ダメだよ、それじゃ足りない」
「……せん、せ」
か細く呼んだその瞬間、先生の手が私の後ろ髪に触れた。
やわらかく、でも逃げ場をなくすように指がそっと絡まる。
先生の顔がゆっくりと、けれど、
一切の迷いなく私の唇へと近づいてくる。
「んっ……」
唇が深く重なる。
さっき私がした、ただ触れるだけのキスとは違う。
吸われるたび、舌先が唇の外側をくすぐるみたいに動いて、身体が勝手に反応してしまう――。
「んぅ……っ」
かすかに唇を開いた瞬間、先生の舌がためらいなく滑り込んできた。
私の舌に触れたかと思えば、何度も舌先に触れて絡め取ってくる。
(……っ、あ……っ)
舌と舌がこすれ合う感覚に、思わず身体がびくっと反応してしまう。
先生の舌は優しいのに遠慮なんてなくて、奥へ奥へと誘うように動く。
私の舌をすくい上げ、少し吸われるたびに、頭が真っ白になる。
「……っは、ぁ」
唇がそっと離れると、空気が一気に肺に流れ込んできて、
思わず甘い吐息が漏れた。
濡れた唇の余韻がまだ残っていて、心臓が脈打つ音が止まらない。
(……息、できてなかった……)
ぼんやりとした視界のなかで、私は先生を見上げた。
その瞳はどこか満足そうで――
だけど、それ以上に熱を宿していて。