第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「あー……傷ついたなぁ、僕」
「――っ」
思わず、顔を上げてしまう。
先生は両手で顔を覆い、「もう立ち直れないかも……」と、わざとらしく肩を震わせていた。
「……っ、ご、ごめんなさいっ……!」
咄嗟に言葉が飛び出した。
「みんなに……先生とのこと、バレたくなくて……!」
しゅんと肩を落とし、手をそっと膝の上に置く。
「だから、ああいう言い方しかできなくて……本当は……」
そこで言葉が詰まる。
でも、“本当は”の続きを言うのが、どうしても恥ずかしくて。
そんな私の姿を、先生はじっと見つめていた。
「……僕は、別にバレてもいいけどね」
「だっ、ダメです!」
思わず、声が大きくなる。
「……先生に、私のことで迷惑かけたくないんです」
最後の言葉はさっきまでの勢いとは違って、しぼむように小さくなっていた。
その一言を口にしたとたん、ぽんと頭に手が乗った。
「……バカだね、は」
ため息混じりにこぼれたその声は、呆れでも怒りでもなく――どこまでも、優しかった。
「僕はむしろ――」
言いかけて、先生がふっと笑う。
「……迷惑でも、全然かまわないって思ってるよ」
目を見開いた私に、先生はいたずらっぽく笑って続けた。
「だって、僕の“好き”はそんくらいじゃ揺るがないから」
さらっとそう言って、私の額にそっとキスを落とす。
その優しさに、胸の奥がじんと温かくなって――
何も言えずに、私は小さくうなずくことしかできなかった。
「……ん?」
先生がふいに目を留めたのは、ベッド脇のサイドテーブルだった。
「これ、どうしたの?」
先生の長い指が、ハーバリウムの瓶の側面を軽くなぞる。
「あ……それ、伏黒くんがくれたんです。お見舞いに」
そう言った瞬間、先生の動きがぴたりと止まる。
「……ふーん、恵がプレゼントねぇ……」
「綺麗ですよね、これ」
嬉しくて、自然と頬がゆるむ。