第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「――あ、そろそろ時間だな」
「このあと、とちょっと出かける用事があるからね。さ、みんなは帰った帰った」
「ええっ!? 出かけるって何!? どこ行くの!?」
虎杖くんが目を輝かせて詰め寄るが、先生は涼しい顔で、
「内緒~」
そう言って、いたずらっぽく口元に指を立てる。
「え、もしかして……デート!?」
(ッッッ!!)
「ち、ちち違うっ!! ちがうからっ!!」
「この前の任務がまだ残ってて!デートとかじゃないからっ!!」
焦りすぎて息がうまく吸えない。
「誤解されるようなこと言わないでくださいっ、先生!」
と、つい語気が強くなって睨みつけるように言ってしまった。
けれど、先生は少しも悪びれず、笑みを浮かべたまま肩をすくめる。
「……なーんだ、つまんない」
野薔薇ちゃんが興味なさげに言った。
「君たちも午後から任務入ってるでしょ。はいはい、出た出た~」
先生は扉の方を指さしながら、片手でシッシッと追い立てるような仕草をした。
「えぇー!? まだ全然話してないのに!」
「ドーナツ、私にも食べさせなさいよ!」
虎杖くんと野薔薇ちゃんが同時に文句を漏らす。
「任務なんだから仕方ないだろ……行くぞ」
伏黒くんが短くそう言って立ち上がる。
その声に、二人も仕方なさそうに腰を上げた。
「、また明日もくるなー!」
「、ドーナツ一個残しといて!」
虎杖くんたちはそう言って病室を後にしていく。
「……うん、またね。 みんな、来てくれてありがとう」
ベッドの上から、私はみんなに手を振った。
伏黒くんだけは無言で、最後にちらりとこちらを見てから、そっとドアを閉めた。
病室に静けさが戻る。
残されたのは、私と、先生――ふたりきり。
「……」
(どうしよう……気まずい……)
目も合わせられず、ドーナツの袋の持ち手をくるくるといじる。
そんな私を見てか、先生がため息混じりに言った。