第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「五条先生? ま、顔がいいのと金持ってるのは認めるけどさ」
野薔薇ちゃんが、ストローをくるくると回しながら口を開いた。
「性格が終わってんのよ、あれ。あたし的には“なーし”」
「いや、そこまで言う!?」
虎杖くんが苦笑交じりに突っ込むと、野薔薇ちゃんは肩をすくめた。
「だって事実でしょ? 自己中で、デリカシーないし。無神経で軽薄」
「でも、先生つえーじゃん」
虎杖くんがフォローに回ると、今度は伏黒くんが低くぼそっと言った。
「……ま、俺もあの人が最強なのは認めるけど、尊敬はできない」
私は思わずくすっと、笑ってしまった。
(……まぁ、わかるけど)
いい加減な言葉の奥に、ちゃんと優しさを隠してるのを――
みんな、気づいてないふりをしてるだけだ。
「で、は? 先生のこと、どう思ってんの?」
虎杖くんが、首を傾げてこちらを見る。
「え、えっ……と……」
突然の直球に、思わずどもってしまう。
でも、聞かれてはぐらかすのも、なんだか違う気がして。
「……私も、みんなと同じ意見だけど――」
言いながら、自分でもわかってる。
“同じ”なんて、本当は全然“同じ”じゃないのに。
「でも、訓練とか……いつも真剣に向き合ってくれるし」
「……強引なとこもあるけど、意外と、人のこと見てるっていうか……」
(……でも、それだけじゃない)
心の中で続けた言葉は、胸の奥にそっと仕舞い込む。
訓練中のふとした笑みも、
夜にそっと触れてくれた手の温度も――
誰にも、話せない。話したくない。
私は視線をそらすように、ハーバリウムの瓶に目を落とした。
ガラスの中で揺れる、色褪せない小さな青い花。
誰にも知られたくない――
私だけが知ってる、先生みたいで。
野薔薇ちゃんがちょっと意外そうな顔をして、ジュースのカップを揺らす。
「、つまり“あり”ってこと……?」
「えっ!? いや、そ、そういう意味じゃなくて……!」
慌てて首を振る。
「ふーん? “そういう意味じゃ”って言う割に、顔は真っ赤だけど?」
「なっ……!」
思わず両手で頬を覆った。
耳の先まで熱くなってるのが、自分でもわかる。