第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「――まったく、あんたたち揃ってめんどくさいのよ」
野薔薇ちゃんがあきれたように言う。
でも、その声はどこかあたたかい。
「言っとくけどね、伏黒もも、一人で抱えすぎ。
ちょっとは周り使いなさいっての」
「……うるさい」
伏黒くんがぼそりと返す。
でも、否定ではなかった。
「なんでも話せって言ってるわけじゃないけどさ」
今度は虎杖くんが、穏やかに口を開いた。
「でも、仲間が悩んでるなら――助けたいって思うのは、俺たちも一緒だぜ」
虎杖くんのその言葉に、誰もすぐには言葉を返さなかった。
だけど、その静けさは気まずいものじゃなかった。
胸の奥に、じんとあたたかくしみる沈黙だった。
「……そうだ」
ぽつりと、伏黒くんが言った。
「……これ、に」
そう言って、手に持っていた紙袋を私に差し出してくる。
目を逸らしながらも、差し出す手はどこか丁寧だった。
「え……?」
戸惑いながら、伏黒くんから差し出された紙袋を受け取った。
軽そうに見えて、意外と重みがある。
底に何か、硬質な感触が伝わる。
私はそっと、袋の中に手を入れて――ひとつの瓶を、取り出した。
「……これ……」
掌にすっぽり収まるほどの、細身のガラス瓶。
瓶のなかで揺れるのは、淡い青を基調に、白や薄紫がほんのりと混ざり合った小さな花たち。
落ち着く、優しい色合いだった。
「わぁ、きれい……」
思わずこぼれた声に、横から野薔薇ちゃんがちらりと覗き込む。
「……ハーバリウムね。それ、伏黒が選んだの?」
「へぇ。意外。あんたにしてはセンスいいじゃん」
「釘崎、お前は一言多いんだよ……」
伏黒くんはぼそりと返しつつ、視線を逸らした。
「それ、任務帰りにたまたま見つけて……
が好きそうだなって……思っただけ。……深い意味はないから」
伏黒くんの声は小さくて、少しだけ早口だった。
でも、その言葉だけで十分だった。
胸の奥が、ふわっとあたたかくなるのがわかった。
「……ありがとう、伏黒くん。大切にするね」
そう言うと、伏黒くんは目をそらして、ジュースのストローをくわえ直す。