第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「ほら、一枚くらい平気でしょ。硝子さんには内緒ってことで」
「う、うん……」
ちょっと迷っていたら、虎杖くんが横から乗ってきた。
「ほらほら、これ! 俺が選んだ“ダブルチーズ&ソーセージ”! いっちばん人気だって!しかも、さらにチーズ追い盛り!」
「それ、ほぼチーズの塊じゃねぇか……」
伏黒くんが呆れ顔で突っ込む。
「じゃあ食うな。胃に優しい草でも食べてなさいよ」
野薔薇ちゃんがすかさず言い返す。
「……食うよ」
伏黒くんはやれやれと肩をすくめながらも、紙袋を脇に置いてピザに手を伸ばす。
私はそんな三人のやりとりを見て、思わず笑ってしまう。
あたたかくて、にぎやかで、なんだか……嬉しくて。
その様子を見て、野薔薇ちゃんがくすっと笑い、私の方へと視線を向けた。
「ほら、も。チーズの海に溺れなさいな」
そう言って、カットした熱々のピザを紙ナプキンの上に置いて渡してくれた。
私は両手でそれをそっと受け取った。
ほんのりと伝わってくる温かさ。
とろけたチーズの香ばしい匂いがふわっと鼻をくすぐる。
「……いただきます」
口いっぱいにチーズの香りが広がって、幸せな気分になる。
「……おいしっ」
思わずこぼれた声に、虎杖くんが嬉しそうに親指を立てた。
「だろ!? やっぱチーズ追い盛りが利いてるよな!」
「いや、マジでチーズの味しかしねぇ」
伏黒くんがピザを口に運びながら、冷静にツッコミを入れる。
「熱々のピザにチーズって、それだけで正義よね」
野薔薇ちゃんもぱくっとかじりついて、満足げに頷いた。
「ほら、ももっと食べなさいよ。元気つけなきゃ」
「うん……ありがと」
ふと気づくと、笑い声がぽつぽつと病室に満ちていた。
白い壁も、ベッドのシーツも、さっきより少しだけ明るく見える。
チーズがのびるたび、みんなの顔がくしゃっと笑顔になる。