第16章 「心のままに、花が咲くとき」
【番外編】1年ズがの見舞いにくる話
※このお話は、第16章で再び千葉の港へ向かう直前の出来事です。
本当は伏黒くんとの“仲直り回”として軽めのつもりで書き始めたのですが、思いのほか長くなってしまいました。
友情多めで進めようとしたのに、最後はやっぱり五条先生が全部持っていきましたね……。
伏黒くんがややキャラ崩壊気味かもしれませんが、番外編として箸休めに楽しんでいただけたら嬉しいです。
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病室のドアがバンッと勢いよく開いた。
「~! ピザ持ってきたわよー!」
野薔薇ちゃんの元気な声が、静かな病室に響いた。
その後ろには、大きなピザの箱を両手で抱えた虎杖くんと、どこか申し訳なさそうに紙袋を持つ伏黒くんの姿が続く。
「えっ、みんな? ピザ?」
ベッドで本を読んでいた私は、突然の来訪者に思わず目を丸くする。
そんな私を見て、虎杖くんは得意満面の笑みで答えた。
「チーズてんこ盛り! 元気出そうでしょ?」
「……病人にピザは重いだろ」
伏黒くんがぼそっとツッコミを入れる。
その視線はピザの箱を見つめてやや引き気味だった。
「もっと胃に優しいものとか、考えなかったのか?」
「いや、でもチーズは栄養満点って言うし!」
虎杖くんが食い下がる。
「栄養うんぬんじゃなくて、“消化に優しいかどうか”だろ……」
「細かいことはいいのよ。伏黒、そんなじゃ禿げるわよ」
野薔薇ちゃんがピザカッターを手に、椅子に腰を下ろしてふたを開ける。
ふわっと広がる香ばしい匂いに、思わず表情がゆるんだ――けれど。
「……あの、みんな……」
私は少し戸惑って声を漏らす。
(……私、ずっと……みんなを避けてたのに)
自分の力のことも、距離を置いていたことも、ちゃんと話せてなかった。
それなのにみんなは――
変わらず、こうして笑いながら訪ねてきてくれる。
「……ほんとは、言いたいこと山ほどあるけど」
野薔薇ちゃんが声をかけてくる。
「今はそれ、置いといて。まずは食べるわよ、」
そう言って、にんまりと笑いながらピザカッターを走らせる。