第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「はもう呪術師だよ。ちゃんと、ね」
魔女じゃない。
呪術師――
先生が、そう言ってくれた。
それだけで、心のどこかがふわっと軽くなって、思わず笑みがこぼれる。
(……嬉しい)
(先生に……近づけたかな)
少しだけ、ほんの少しだけでも。
そして私は、そっと先生を見る。
夏の陽射しの下、まっすぐ前を見据える背中。
ずっと憧れてきた、強くて、優しくて――
でも、誰よりも遠い人。
(早く、追いつきたい)
(この背中に、手が届くくらいに)
胸の奥にそっと、そう願いを灯す。
その視線に気づいたのか、先生が顔をこちらに向ける。
「……ん? 僕がカッコ良すぎて、見惚れちゃった?」
そう言って、ニヤついた顔でわざとらしくウインクまで飛ばしてくる。
(……この人は、本当にもう)
思わずため息が漏れた。
「……自意識過剰です」
私はぷいっと顔をそむけた。
照れ隠しにそう言ってみたものの、頬の火照りは隠しきれない。
すると、隣からくすっと笑う気配がした。
「素直じゃないねー、ほんと」
そう言いながら、先生が私のほっぺをつんつんと突いてくる。
子供扱いみたいで、くすぐったくて――
でも、嫌じゃない。
「……もう、やめてくださいよ」
そう言いながらも、口元は自然とほころんでいた。
先生はいたずらをやめるどころか、満足げに目を細めている。
ふと、先生と視線が合った。
目が合っただけなのに、なぜだろう。
胸の奥がぽっと温かくなる。
先生も、私も、何も言わずに同時に笑った。
言葉なんていらなかった。
ただ、心が通った気がして嬉しくなる。
(……ずっと、こんな時間が続けばいいのに)
そんな風に思ってしまうほど、心が穏やかだった。