第4章 「触れてはいけない花」
「力がなければ、は呪力も筋力もなくて、ひ弱からね」
そう言われて、は唇を噛む。
――痛いほど現実を突きつけられた気がした。
は小太刀を握ったまま、力なく笑った。
「でも……私、生まれてこの方、刀なんて振ったこともなくて……」
弱々しい声が庫の中に響く。
五条はそんな彼女を見て、ふっと笑った。
「誰だってそうでしょ。刀持って生まれた桃太郎以外は」
そう言いながら、の手元を覗き込む。
「安心して。僕が、みーっちり特訓させるから」
にこりと笑うその顔は、からかっているようでいて、どこか頼もしかった。
は小太刀を握ったまま、小さく頷いた。
「……よろしくお願いします」
その言葉に、五条は満足そうに目を細めた。
「よし、いい返事」
くるりと背を向け、鉄扉の方へ歩きながら軽く手を振る。
「じゃ、早くこんな陰気臭いとこから出よっか。早速、訓練場に行って、素振りから始めよう」
は深く息を吸い、握った小太刀に力を込めた。
「……はい」
も五条の後に続こうと、一歩を踏み出したそのとき――
視界の上で、何かが動いた。
「……え?」
見上げた瞬間、天井の隙間から大きな蜘蛛がゆっくりと姿を現した。
脚を広げればの手のひらほどもあるサイズ。
鈍く光る黒い甲殻と、じっと動かない複眼。
「っ……!」
息が詰まり、反射的に後ずさる。
小太刀を握る手が震え、背中が鉄棚にぶつかって冷たい音が響いた。
その衝撃で、棚に置かれていた刀や呪具がガラガラと音を立てて崩れ落ちる。
(――まずい、当たる!)
反射的に体を縮め、ぎゅっと目を瞑った。
次の瞬間、痛みや衝撃が襲ってくるはずだった。
……けれど。