第4章 「触れてはいけない花」
高専の敷地奥――重厚な鉄扉の前で、は立ち止まっていた。
冷たい金属の匂いと、張りつめた空気。
「……ここは?」
小さく呟くと、前に立つ五条が南京錠に鍵を差し込み、カチリと音を立てて回しながら振り返った。
「呪具庫。高専で扱う呪具が眠ってる場所」
南京錠が外れると同時に、五条が取っ手を引いた。
重い扉がギィ、と鈍く軋む。
その奥から、古い鉄と油の匂いが鼻をついた。
「ささ、どうぞ」
ひょいと手を伸ばし、に先を促す。
おそるおそる中に足を踏み入れた瞬間――息が詰まった。
薄暗い室内。
壁一面の棚には、刀や槍、錆びついた鎖、黒ずんだ短刀が無造作に並んでいる。
どれも触れたら呪われそうな、禍々しい気配を放っていた。
後ろから足音。五条も庫の中に入り、鉄扉を閉めると、声を落として言った。
「通常、呪霊は呪力を帯びた攻撃でしか祓えない」
が緊張で固まっているのを見て、軽く肩をすくめる。
「でも、の力はちょっと例外。特殊すぎて、普通のルールが通じない」
そう言いながら、五条は棚の中ほどに手を伸ばし、一本の小太刀を抜き取った。
鈍い光を放つ刃を鞘ごと持ち上げ、に差し出す。
「ほら、持ってみ」
は恐る恐る両手でそれを受け取った。
――ずしり、と腕に重みがのしかかる。
「……重い」
手のひらがじっとり汗ばみ、握りが不安定になる。
五条はそんな様子を見て、片手で後頭部をかきながら言った。
「の力はね、確かに僕に負けないぐらい、一瞬で呪霊を祓える」
そう言ってから、少しだけ声を落とす。
「でも、まだ未知な部分が多いし――そもそも君自身が掌握できてない」
が顔を上げると、五条は真っ直ぐこちらを見ていた。
その表情はいつもの軽口混じりのものではなく、教師としての真剣な眼差しだった。
「だから。力が発動しなかったときのために、呪具で祓うことを覚えた方がいい」
小太刀を軽く指で叩きながら続ける。