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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第16章 「心のままに、花が咲くとき」


「あなたは、副船長という立場でありながら、
 事故当日、その責任を放棄して――乗客を見殺しにしました」

 

椅子の背にもたれていた男の身体が、わずかに前に傾いた。
私は目を逸らさず、静かに続ける。

 

「……あの女の子の“浮き輪”を、あなたが奪った」

 

その瞬間――
男の目が、大きく見開かれた。

 

「……っ!」

 

口元が歪む。
だが、男は鼻で笑い視線を逸らした。



「証拠でもあんのか? 俺が“奪った”っていう、証拠がさ」

 

その声はわずかに震えていた。

 
私は黙って貝殻を見つめ――ゆっくりと言葉を紡ぐ。



「……証拠なら、あります」

 

男の表情が一瞬止まる。

 

「……は?」

 

私は無言のまま、貝殻のキーホルダーをゆっくりと差し出した。

 

「これは、お土産で売っていたキーホルダーとは違います」

 

テーブルの上に、夏の陽光が差し込む。
ガラス玉の部分がきらりと、淡く光を返した。

 
男の目が、ガラス玉に向かう。
その視線がほんのわずかに揺れたのを、私は見逃さなかった。

 

「彼女のお母さんが……他の子のものと区別するために“硝子玉”をつけてあげたんです」


観光船の甲板で、母親が娘の小さな手を取って糸に硝子玉を通してやる姿。
少女は胸の前で大事そうにその貝殻を抱きしめ、「これで、わたしだけのだね」と笑っていた。
――あの子の記憶に、確かに刻まれていた情景。 


私は男の顔をまっすぐに見つめた。


 
「……これは、波打ち際に落ちていました」

「な、に?」

「浮き輪を奪われた女の子は……最後にあなたの胸ポケットにこれを入れたんです」

 

その言葉に、男の指先がぴくりと動いた。

 

「あの事故では遺体も遺品も全て流されてしまったと聞いています。どうして、亡くなった女の子のものが落ちていたんでしょうか?」

 

私は言葉を切り、その目を射抜くように見つめた。


男の顔色がみるみるうちに変わっていく。
額に汗が滲み、煙草の火が指先でじりじりと縮んだ。



「そ、そんなの……お前の想像だろっ! あれは……不運な事故だったんだよ!」



怒鳴る声は荒々しく響いたが、その裏にある動揺は隠しきれていない。

私は視線を逸らさず、静かに言葉を返す。
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