• テキストサイズ

【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第16章 「心のままに、花が咲くとき」


***


潮の香りを含んだ風が、街路の植え込みを揺らす。
かすかな砂の音と、濃い夏の光だけがそこにあった。

 
家の前までたどり着くと、私は深く息を吸い込んでインターホンを押した。

 
ピンポーン、と乾いた電子音が響く。
数秒後、がちゃりと音を立てて玄関の扉が開いた。

 

「ん……あれ? この前の子じゃねえか」

 

顔をのぞかせたのは、あの時の――
事故にあった観光船に乗っていた、副船長だった。

 

「今日は……なんの用だ?」

 

無精ひげの生えた顎をさすりながら、男が眉をひそめる。
その姿に、私は思わず指先を握った。

 


「……今日は話したいことがあって、来ました」

 

声がかすかに震えた。
でも、視線はそらさなかった。

 

「少しだけ、お時間いただけませんか?」



男はしばらく訝しげに私の顔を見つめたあと、
ふっとため息をつくように顎を引いた。

 

「……まぁ、いいけど。上がんな」



玄関の靴をよけて、男が中に入る。
私は小さく頭を下げて、後ろ手にドアを閉めた。


リビングに通された先は、生活感のある古びた部屋だった。
風が抜ける窓のそば、木のテーブルに男が腰を下ろす。

 

「……で?」

 

男が胡坐をかきながら、煙草に火をつける。
火種の音とかすかな煙の匂いが鼻をついた。

 

「おまえ、心霊現象調べてた学生だったよな? まだ調べてんのか?」

 

私は首を振った。

 

「いいえ。今日は“調査”じゃありません」

 

そう言って私はカバンの中から――
あの貝殻のキーホルダーを取り出して、机の上に置いた。

 

「……これに見覚えがありますよね?」

 

男はちらりとテーブルに置かれた貝殻に目をやると、
鼻で笑うように言った。

 

「見覚えって……ああ、うちの船でも売ってたやつだな。どこにでもあるだろ、こういうの」

「そういや、あの事故で死んだ……女の子も持ってたっけな」



そう言って、男は煙草をくゆらせる。
 

 
「……だから、それがなんなんだよ」

 

声が低くなる。
目線が一瞬逸れたのを、私は見逃さなかった。
/ 456ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp