第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「だって……なんか……二人を見てたら」
おかしくて、でもなんだか嬉しくて。
「先生と、硝子さんと……また一緒にいられるんだって……そう思ったら、なんか嬉しくなっちゃって」
そう言いながら二人を見て、胸の奥にこみあげるものがあった。
気づけば、視界の端にほんのりと涙がにじんでいた。
先生がそんな私を見つめたまま、やわらかく目元を緩める。
その視線に私はまた少しだけ、顔を赤くした。
「……五条のその顔、見てるこっちが鳥肌立つんだけど」
硝子さんがぞくっとしたように身震いして、白衣の上から両腕をさする。
「えー? せっかく優しい彼氏ムーブしてんのにぃ」
「それが不気味だっつってんの」
硝子さんはやれやれと肩を落としてから、親指をぐいっと後ろに突き出した。
「……で、あれはどうする?」
そこには、いまだに泡を吹きながら床で転がっている伊地知さんの姿が。
「だーいじょうぶでしょ。ほっとけば起きるって」
先生はのんきな声でそう言うと、
「人のキスシーン見ただけで失神するとか……伊地知、童貞か?」
と呆れたように眉を下げた。
(……いや、伊地知さんが倒れてるのはもっと別な理由な気がする)
私は内心で、そっとツッコミを入れるしかなかった。
すると、硝子さんがふと思い出したように声を上げた。