第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「……この病室を、これ以上甘くしないでくれる?」
不意に聞こえた、その涼しい声に空気が一瞬で凍りついた。
「っ――!!?」
私は勢いよく先生から身を離して、振り返る。
「しょ、硝子さんっ!?」
病室のドアにもたれかかるように立っていたのは、
白衣姿で冷えた目を向ける硝子さん。
「……ったく、朝からこれは胃もたれするわ」
その後ろでは、伊地知さんが泡を吹いて白目を剥きながら、床に倒れている。
(う、うそ……見られてた……!?)
顔から火が出そうで、どうにかなりそうだった。
「硝子〜、邪魔しないでよ。いいとこだったのに」
先生がまったく動じた様子もなく笑いながら言う。
「ここは、病室だ。そういうことしたいなら、ラブホ行け」
硝子さんの言葉に、私は耐えきれず顔を覆った。
(ど、どうしよう……ばれちゃった……っ)
先生との関係。
(もし、他の人にも知られたら……生徒と教師がそんな関係だなんて――きっと問題になるに決まってる)
怖さと不安で、胸がぎゅっと縮こまる。
でも、なにより――
私と先生のこの関係が、先生に迷惑をかけたりしたら。
そのことが、いちばん……いやだ。
先生は青ざめた私の頭をぽんと軽く叩いて、微笑んだ。
「、大丈夫。硝子は、僕たちのこととっくに知ってるから」
「……え?」
私はきょとんとした声を漏らし、二人を見る。
「安心しろ。二人のこと、人に言う気はないから」
(……え、知ってたって……硝子さん、いつから?)
目の前で繰り広げられる会話に、頭が追いつかないまま、
ただふたりのやりとりを見守るしかなかった。
「……てか、硝子」
先生の声が拗ねたように響いた。
「なんでの意識が戻ったって、僕に言わないわけ?」
「お前が知ったら、任務放り出して飛んでくるの目に見えてたから」
硝子さんはあきれたようにため息をついた。
「それに巻き込まれる伊地知の顔が、目に浮かぶ」
「男の苦労なんて興味ねえっつうの」
そのやりとりがなんだか可笑しくて、私は思わずくすっと笑ってしまった。
「……なに笑ってんの、?」
先生が不満げにこちらを見る。