第16章 「心のままに、花が咲くとき」
「ううん。らしくて、いいんじゃない?」
やさしくて、どこか誇らしげな声だった。
「……あ、でも」
先生はわざとらしく眉をひそめてみせた。
「力を発動できるようになったからって、呪具の訓練はサボっちゃダメだよ?」
「今回だって、あのぐらいの呪霊に簡単にやられちゃってさ」
「うっ……」
言い返せなかった。
反論の余地なんて、どこにもなかった。
「血まみれで倒れてるの見て……」
そこまで言って、先生は言葉を切った。
そして、わずかに目を伏せる。
(……先生……)
胸がぎゅっとなる。
「……ご、ごめんなさい……っ」
小さく縮こまるように、私はしゅんと肩を落とした。
うつむいたまま、手をぎゅっと握りしめる。
「これからもご指導お願いします……」
その声があまりにしおらしかったのか――
先生はくすっと笑って、私の頭に手を伸ばした。
「よろしい」
軽く、ぽんぽんと頭を撫でる感触。
その手のひらが、あたたかくて、やさしくて――
「……僕を、一人にしないんでしょ?」
ふいに落とされたその言葉に、はっと息が止まる。
(……え?)
(なんで、それ知ってるの……?)
先生はそれ以上は何も言わなかった。
ただ、穏やかな目でこちらを見ている。
私の中でまだ言葉にならない気持ちを、全部、受け止めてくれるみたいに。
そんな静けさが、ほんの数秒、流れた。
「……そうだ」
先生の声が、ほんの少しだけ低くなる。
「あの任務、実は高専が請け負ったものじゃなかった」
「……え?」
私が問い返すと、先生は真剣な表情のまま続けた。
「伊地知も、僕も――誰も把握してない任務だった。
と同行した補助監督の“水原”って男……高専にそんな名前の人間はいなかった」
心臓が大きく跳ねる。
「……そんな……水原さんが……」
私の唇からかすれた声が漏れた。
冷たい不安がじわりと広がっていく。
「……上層部がまた私を殺そうとして、任務に?」
先生はその言葉に眉を寄せた。
そして、静かに首を振る。