• テキストサイズ

【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第16章 「心のままに、花が咲くとき」


先生はしばらく何も言わず、窓の方に視線を逸らした。
そして、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開く。

 

「……術師の中には」

「非術師のために、いくらでも自分の命を捧げられるやつもいる」

「……でも、そんなのほんの一握り。そういう奴は僕からするとだいぶイカれてるよ」
 


そう言って、先生は少しだけ笑った。
でも、その笑みの奥に、ほんのわずかな影が差した気がした。

 

「自分の中に意味を見出せなくて……そのまま、壊れていく奴もいる」

 

急に落とされた声に、私は無意識に息をのむ。
目は私を見ているのに、視線の先はずっと遠く――
まるで、もうここにはいない誰かを見ているようだった。

 

「……全部投げ打って、誰かを救おうとしたはずなのに。
気づいたら、自分自身が何もかも見失って……戻れなくなってた」


(誰かのことを、言ってる)

 
そう感じた。
先生の言葉の端々に、後悔の匂いが滲んでいたから。

 
先生は軽く肩をすくめて続ける。



「悠仁だって、恵だって、野薔薇だって――みんなそれぞれ、自分なりの意義で動いてると思うよ」

「“誰かのため”って口では言っててもさ、結局はみんな、自分の正義とか、信じてるもののために動いてる」

「だけど、それで誰かが救われるなら、上等だと思わない?」

 

先生の言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
私はふと視線を落として、自分の手を見つめた。

 

「……私、ずっと……」

 

言葉を選びながら、ゆっくりと口を開く。

 

「この力を、“送る”ってことを……どこかで、間違えて捉えてました」

 

先生が静かにこちらを見つめている。

 

「苦しんでる魂を、ぜんぶ自分が背負わなきゃいけないって……
見て、感じて、受け止めて……ひとりで全部どうにかしなきゃって、そう思ってました」



喉の奥がつまる。
けれど、言葉は止まらなかった。



「全部を救えなくてもいい。完璧じゃなくても。それが、怖くても、間違ってたとしても……」

「……今は自分にできることをやろうって、そう思ったんです」

 

そう言って、私は顔を上げた。



「……ダメ、でしょうか?」

 

そう尋ねる声は少しだけ震えたが、先生は口元を緩めた。
/ 456ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp