第15章 「その悔いは花冠に変わる」
***
夜道を走る車内。
ハンドルを握る伊地知の横顔は、やや引きつっていた。
後部座席には腕を組んで足を組んで、ふんぞり返る五条悟の姿。
その顔には明らかな不機嫌が滲んでいる。
「……伊地知、甘いもん食べたい。今すぐ」
「えっ、あ、甘いものですか?」
「……ケーキでも、プリンでも、なんでもいい。……寄って」
「い、いやぁ……さすがにこの時間では、空いてる店が――」
「開いてるとこ、探してよ」
その声音に、伊地知の手がハンドルの上でわずかに震えた。
「……そんな、理不尽な……!」
「ったく……はぁぁぁぁぁ……」
五条の大きなため息が車内に響く。
(ため息つきたいのは、こっちなんですが……)
伊地知は心の中で静かに突っ込んだ。
(最近、五条さんの機嫌悪いな……)
(ときどき、何か考え込んでるようにも見えますし……)
伊地知がちらりとルームミラーを見やった、そのとき――
「ねぇ、伊地知」
「は、はい?」
「最近、元気?」
唐突な問いに、伊地知はハンドルを握ったまま目を瞬いた。
「え……いや、それは五条さんの方が……詳しいのでは……?」
後部座席の五条は返事もせず、窓の外を見たまま沈黙している。
伊地知は慌てて取り繕った。
「元気そうには、見えますけど……」
「……今日のの任務は?」
「え?」
「いいから、調べて」
五条の声に押され、伊地知は小さく息を呑んだ。
すぐに車を路肩へと寄せて止めると、タブレットを取り出して操作を始める。
その横で、五条はポケットからスマホを取り出した。
画面を開く。
そこには、とのメッセージアプリの画面――