第15章 「その悔いは花冠に変わる」
(……これが……“花冠の魔導”)
女の子は目を見開いた。
その頬にはまだ涙の跡が残っているのに、小さく微笑んだ。
「……お姉ちゃん、ありがとう」
「……お父さんと、お母さんに……会わせてくれて、ありがとう……」
「……え?」
思わず、私は聞き返す。
女の子の視線の先を追って、ゆっくりと振り返った。
そこには――
さっきまで呪霊がいた瓦礫の向こうに、微笑んで立っている人たちがいた。
女の子の両親。
そして、観光船で命を落とした人たち。
彼らはみな、穏やかな顔でこちらを見ていた。
怒りも悲しみも、苦しみも、そこにはなかった。
ただ――愛する人を迎えに来た者の、静かな微笑みだけがあった。
女の子はポケットから何かを取り出す。
それは、彼女がお母さんに買ってもらったという貝殻のキーホルダーだった。
「……これ、お姉ちゃんにあげる」
手のひらに乗せられたそれを、私は思わず両手で包み込む。
どうしてか、涙がこぼれた。
胸の奥が痛いほどに熱くなる。
「……お姉ちゃん、バイバイ!」
そう言って、女の子は両親の元へ駆け出していった。
まっすぐに、まるで迷いのない足取りで。
私はゆっくりと手を振った。
泣いてなんかいられなかった。
笑って、見送らなきゃ。
「――うん、いってらっしゃい」
花弁がひとひら、風に乗って舞い上がる。
光がゆっくりと消えていく。
女の子の姿も、両親の姿も、やがて空気のように溶けて消えていった。
私の手の中に残ったキーホルダーが、かすかに光を帯びていた。
やさしい風が頬をなでる。
遠くで、波の音が聞こえた気がした。
静かだった。
あまりにも、静かで――
(……よかった……)
そう思った瞬間、張りつめていた糸がふっと切れた。
身体の芯から力が抜けていく。