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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第15章 「その悔いは花冠に変わる」


***


あの避難所の暗がりの中、照明もつかず寒さと不安に震えていたあの夜。


(……命の危機に瀕したときこそ、人間の“本性”はあらわになる――)

 
誰かが、そんなふうに言っていたのを思い出す。
確かにそれは真実かもしれない。
自分の命が危ないとき、人は自分のことしか考えられなくなる。


(……それを、責めることはできない)

 
私だって、そうだったから。


あのとき、避難所で――
私よりも小さな子がひとりで泣いていた。
母親が戻ってこなくて、ずっと「ママ、ママ」って叫んでた。


でも、誰もその子にかまってやる余裕なんてなかった。
自分の安全を守ることで精一杯で。
自分の家族を探すことで、頭がいっぱいで。


あまりに泣き続けるその子に、苛立った男の人が怒鳴った。
――うるさい、黙れって。


ある夜、その子が私を見上げて言った。


 
「……お、おねえ……ちゃん……」
 


震える声と一緒に、小さな手がそっと私のほうへ差し出された。
必死に何かにすがるように伸ばされたその手。


 
でも――








 

私はその手を握らなかった。


(……できなかったんだ……)


私だって、怖かった。
私だって、寂しかった。
認めたくなかった。
両親がもう戻らないっていう現実を。


誰かに優しくする余裕なんて、あのとき私にはなかった。
助けを求められても、応えられなかった。
背を向けてしまった。


(……ずっと、後悔してた……)


あの子の顔も、声も――もうあまり覚えてない。
でも、忘れられない。
あのとき伸ばされた、小さな手だけは。





今ならわかる。
暗がりの中であの子がほしかったのは、言葉じゃなかった。
ただ、ぬくもりがほしかっただけなんだ。


気の利いた慰めの言葉も、立派な励ましもいらなかった。
安い同情だって、必要じゃなかった。


ただ、あの子のそばにいて。
あの手を握ってやれば、よかったんだって。
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