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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第15章 「その悔いは花冠に変わる」


「……これで――っ!!」



叫びと共に、小太刀を振り下ろす。


狙うのは、先ほど斬り裂いた片目の奥。
砕けた視界のさらに奥――呪霊の核を。


刃が、鈍く、深く、肉を貫いた。
小太刀が、肉を貫いた瞬間――


視界がぐにゃりと歪んだ。
空が落ちる。
音が消える。
世界が沈む。


(え、なに……?)


耳の奥に“警報”の音が響いた。






轟音。
金属がきしむ音。
誰かの悲鳴が、何重にも重なって押し寄せてくる。


船の手すりにしがみつく人。
泣き叫ぶ子供。
床に叩きつけられたまま動かない老婆。



「誰かぁ! 助けて!」

「やだ! いやだぁあ!」

「子供がっ――!」



船が沈んでいく。


傾く船体。
窓が割れ、海水がなだれ込んでくる。


咄嗟に浮輪を探す者。
家族の手を引いて逃げようとする者。
逃げ場を失い、ただ泣き崩れる者。


(……これ、は……)


目を背けたくても、視界が焼きつく。


これは“呪霊”の記憶。
観光船で命を奪われ、その死を受け入れられなかった者たちの――
最期の絶望。


身体の中に、無数の叫びが流れ込む。


肺がつまる。
水が、感情が、恐怖が、押し寄せる。


それでも。


私は――これを、見なくちゃいけない。
彼らはまだ、この海に囚われている。


ざぶん、と大きな水音が響いた。
次の瞬間、視界の中に――


“あの女の子”が見えた。

 
浮き輪にしがみつきながら、泣きじゃくる小さな女の子。
その腕を必死に掴む母親。
もう片方では、父親が娘を抱えるように支えていた。

 

「ユウナ、大丈夫よ……」

「パパとママは、ここにいるから」

 

母が震える声で言った。
父も、微笑むように頷いた。
だが――


二人は、自ら浮き輪を手放した。


 
「え……やだ、おかーさん……?」

「おとーさん、浮き輪は? ねぇ、これ――」

「ユウナが、助かるためよ」

「お父さんたちは大丈夫、絶対、大丈夫だから……!」

 

必死に縋る娘に、微笑みながらそう言い聞かせる。


でもそのとき――


轟く波が船の残骸ごと、二人を飲み込んだ。

 

「――っ、おかあさん!! おとうさん!!」

 

小さな叫びが泡にかき消された。
両親の姿は、もう水面にはなかった。
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